2020.10.30
— シロギス釣りはチョイ投げでも楽しめる手軽な釣りのひとつです。しかし、そんな親しみやすさがある一方で、ストイックに飛距離を追求する釣り人も大勢いらっしゃいます。まずは、お二方が感じていらっしゃる遠投の魅力についてお聞かせください。
日置:純粋にキャストしたときの爽快感でしょうかね。僕は子供の頃から“投げること”が大好きで、高校時代は陸上部に所属して、槍投げをやっていたほどなんです。投げ釣りは、魚を釣ること以外に“投げる楽しみ”も味わえるスポーツ的な要素が強い釣りです。飛距離が伸びれば攻められる範囲も広がり、おのずと釣果も上がります。ほかの釣りでは200mも先のポイントは攻められませんからね。遠くでシロギスのアタリが入ったときの気分は格別です。
草野:僕もフルスイングしたときの気持ちよさですね。全身を使って運動する機会って、大人になるとなかなかありませんよね。ゴルフをする方ならドライバーをフルスイングする快感を理解していただけると思いますが、これと似た感覚ですね。
日置:ジャパンカップでは誰も届かへんポイントへ大遠投して優勝したもんなぁ(笑)。
草野:近いポイントで釣れているときに遠くへ投げる必要はないし、遠投したらかえって釣れないこともあるんですけどね(笑)。
日置:それでも遠投でしか釣れない状況もあるわけですから、投げ釣り師にとって飛距離は強力な武器のひとつですね。
— 安定して8色以上投げるとなると、体力や高度なキャスティングスキルが要求されますが、ロッドやリールが進化し、極細PEラインが普及した現在は、投げ釣りを始めて間もない人でも、ある程度の飛距離は出せるかと思います。いまひとつ飛距離が伸びないという人は、何が原因なんでしょうか。
日置:僕は各地で開かれる講習会に呼んでいただくことが多いのですが、飛距離で伸び悩んでいる生徒さんを見てよく感じるのは「弾道の低さ」です。オモリの射出角が浅く、ライナー気味に飛んでしまっているんですね。サーフの波打ち際は、平坦かやや前下がりになっているのがほとんどです。キャストの目標の取り方をやや上げることですね。
— なるほど。
日置:あともうひとつ、飛ばない人の多くは、上体だけで投げようとしているんですね。大切なのは上体よりむしろ下半身なんです。
草野:ああ、それはありますね。ルアーロッドならば腕だけでも曲げられますが、硬くて長い投竿になると、上体だけでは振り切れません。
日置:なので、講習会ではまず僕が投げてみて、胸を張り、体全体を使ってキャストすることをアドバイスさせていただいています。スイング時のパワー配分としては、上半身が3、下半身が7くらいのイメージかな。僕は運動不足のままフルキャストを繰り返すと、右足のふくらはぎが筋肉痛になります(笑)。これは右足を強く蹴って体重を前方へ移動させているからなんです。
草野:キャスティングは全身運動ですからね。上半身だけでなく下半身を使うこと。それと利き腕側の足でしっかり地面を蹴って、身体の捻転によるパワーをロッドに伝えることですね。
日置:よく生徒さんから「筋力トレーニングをしたほうがよいですか?」とか聞かれるのですが、その前に身体の使い方を見直してみましょう。ちょっと投げてみてくださいと。講習会では1人あたり10分程度しか直接アドバイスできないのですが、先に言ったオモリの射出角度と、下半身を使うことの2点を直したら、その10分の間に大半の生徒さんは50mほど飛距離が伸びますよ。
— 飛距離を伸ばすため1からキャスティングを見直したいという人は、どのように練習したらよいのでしょうか。
日置:一般的なスリークォータースローから練習するとよいと思います。オーバースローですとスイング幅が限定されますが、竿先を地面に近づけて、深い角度からロッドを振っていけるスリークォーターであればスイング幅を長く取ることができます。今日の釣行で撮影したキャスティングは(次回で詳しく解説)、僕も草野さんも深めのスリークォーターですものね。
草野:いわゆる「V時投法」です。遠投といえば回転投法というのもありますが、スイング幅が長ければ飛ぶというわけではありませんからね。
日置:ロッドにオモリの重みを乗せて、リリースの瞬間にトップスピードへ持っていくように振るんです。よく見かけるのが、振り始めに力が入りすぎて、リリース時にはスイングスピードが失速しているパターン。草野さんのキャスティングは非常に豪快ですが、振り始めはゆっくりですものね。そこから一気に加速していくんです。
草野:人間が強く竿を振れる範囲って、そんなに広くありませんからね。ましてや現在の投げ釣りはメインライン、力糸ともに伸びの小さいPEラインが主流ですから、深めの角度からのスリークォーターで、必要な範囲内で強く振るほうが飛びます。
日置:力糸がナイロンの時代は、さらに深いところからスイングを始める必要があったんです。力糸が伸びてオモリがロッドに乗るまで時間がかかりましたからね。伸びのないPEはいきなりガツンとオモリが乗りますから、深い位置から振るとリリース前にロッドが反発してしまいます。ナイロンからPEに変えた当初は、タラシを長く取ることで意図的にオモリの乗りを遅らせ、リリースまでのタイミングを取るようにしたものです。ただ、現在はオモリの乗りが早くなったぶん、浅い位置から竿を振るようになったので、タラシの長さ自体は短くしていますね。タラシを短くして、浅い位置からコンパクトに竿を振るほうが飛びます。
草野:タラシを長く取っても飛距離が伸びるわけではないということは、ぜひ知っておいていただきたいですね。ロッドの長さにタラシがプラスされることで回転半径が広がり、遠心力が増大するという考えからこのような解釈が生まれると思うのですが、オモリはロッドに対して直角に追従しますから、タラシをいくら長く取っても回転半径に影響しません。むしろ、タラシを長く取りすぎるとスイング軌道の外側をオモリが通ってしまい、オモリの重さがきちんとロッドに乗りません。基本的には、タラシを長く取るほどキャスティングが難しくなりますね。
日置:タラシは長すぎても短すぎてもダメですね。ベストなタラシ長は人によって違いますから、いろいろ試して決めていただければと思います。
— 身体の使い方とロッドの振り方、これを見直してからタックルを考えるわけですね。
日置:そうなります。人によって体力や体格は様々ですから、ロッドの硬さ、長さともに自分に合うものを選んでいただくということですね。シマノの投竿はバリエーションが豊富なので、好みの1本が見つかると思います。
草野:ただ、釣りを始めて間もない人だと、過度に硬いロッドは反発が強すぎて持て余してしまうかもしれません。先にも言ったように、現在はPEライン全盛の時代です。硬いロッドはオモリが乗っても、きちんと振らないとすぐに曲がりが戻ってテンションが緩んでしまいます。僕も日置さんも昔はAXクラスの剛竿を振っていましたが、PEラインを使い始めてからはBX、CXクラスまで硬さを落としていますからね。個人的には、よほど重いオモリを使わない限り、このクラスでも十分な飛距離を得られると思います。
日置:最近のシマノのロッドは、振り調子が軟らかくてもパワー自体は上がっていますからね。X構造でブランクスのネジレやつぶれが抑えられ、ラインの放出抵抗と空気抵抗を軽減するXガイドエアロチタンなどの技術によってロッドの性能は飛躍的に向上しています。何より、軟らかめのロッドは身体への負担が小さいのがありがたい。これがナイロンの力糸で投げろと言われたら、ワンランク、ツーランク硬いロッドが欲しくなりますけど(笑)。
草野:やはりPEラインの普及がタックル理論を根底から変えましたね。それにともなってタックルも劇的に進化しました。正しいキャスティングをマスターすれば、誰でもある程度の遠投はできるようになると思います。
— ありがとうございました。次回ではお二方のキャスティングスタイルについて、お互いに解説していただきたいと思います。
vol.3に続く