2020.11.18

“投げる楽しさ”を多くの人へ THE・遠投ディスカッション [草野満&日置淳]

Vol.3 スペシャル対談「キャスティングの楽しさと奥深さ」解説編

それぞれのキャスティングスタイルについて

— ここからはお互いのキャスティングについて分析していただきたいと思います。まず、日置さんから見た草野さんのすごさ、飛距離が出るポイントなどを教えていただけますか?

日置:彼との付き合いは長いのですが、まぁ我々シマノのインストラクターの中でもトップクラスの飛距離を出す人なんです。彼のキャスティングは非常に豪快で、見方によっては非常に強引に見えるのかもしれませんが、背骨を軸として身体の捻転をフルに使っている、実に理に叶ったフォームなんですよ。

草野:僕自身は飛距離を求めていくうち、自然に身に付いた投げ方なので、理屈はよくわからないんですけどね(笑)。

日置:草野さんのキャスティングの特徴としては、振り始めはスリークォーターなのですが、途中から上体が左へ傾いて、竿が縦軌道に変わるんです。その際、オモリも斜め軌道から縦軌道へと変化するわけですが、この軌道修正が非常にスムーズで、かつ力強い。先ほど理に叶ったフォームと言いましたが、振りが弱いとオモリが竿軌道の外に膨らんでしまうので、これを一般の方が真似するのは難しいでしょうね。強靱な背筋力と下半身がないと、このキャストはできません。

草野:感覚的な表現で申し訳ないのですが、身体を斜めにするほうが体重をぶつけやすいんですね。自分ではスリークォーターで振っているつもりなんですよ。ただ、身体が傾く分だけ、竿が立っていく感じですね。まぁクセのようなものです(笑)。

— 柔道の背負い投げを見ているようです(笑)。では、草野さんから見た日置さんのキャスティングはいかがですか?

草野:スムーズといいますか、エレガントといいますか、とても綺麗なフォームです。力を入れず軽く振っているようですが、リリースの瞬間にはきちんとパワーを集中させています。最短距離の軌道でトップスピードに持っていくので派手さはありませんが、キャストし終わってリールのスプールを見たら「えっ、そんなに出ているの?」というような感じです。

日置:僕の場合は完全なスリークォーターですね。

草野:そう、それも無駄のないスリークォーターです。僕のキャスティングが背負い投げなら、日置さんはボクシングで言うところのショートレンジのストレートパンチかな。最短距離でスムーズにトップスピードにもっていくから、当たれば倒れちゃうみたいな(笑)。

日置:意識しているのは身体の捻転と右足の蹴り。つまり右足から左足への体重移動なんですよ。身体の捻転プラス、右足を蹴り込むことで後方から前へ一気に体重を移動させ、スイングスピードを上げるんです。フルキャストを繰り返した翌日は、右足のふくらはぎが筋肉痛になるんです。それだけ下半身を使っているということですよね。

— では、次からは動画と写真を見ながら詳しく解説していただきましょう。

草野満さんのキャスティング分析

①スイング開始

日置:草野さんのキャスティングは豪快ですが、オモリを拾うまではゆったりとしているんです。肩の力も抜けていて、リラックスした状態から竿を振り始めますね。

草野:この時点では力を抜き、右足にしっかり体重を乗せます。タラシはさほど長く取りません。

右足に体重を乗せてスイングを開始。

②スイング初動

日置:ちょうどオモリを拾ったかどうかのタイミングですね。このときはまだオモリが斜め軌道ですが、ここから縦軌道に変化させつつ爆発的に加速するんです。これはちょっと真似できないですね(笑)。

草野:左足をステップして重心を移動させているところですが、ちゃんと右足は蹴り込んでいますね。

ここからグッと腰を落として胸を張り、身体を捻転させていくとともに重心を一気に左足へ移す。

③スイング加速

日置:この写真は草野さんのすごさがすべて表れています。竿を振る軌道のことを「スイングプレーン」と呼ぶのですが、竿を通した後にまっすぐオモリが通る、理想的なキャスティングがまさにこれなんです。ロッドパワーがロスなくオモリに伝わるし、オモリの軌道がブレずコントロールもつけやすい。完璧なスイングですね。

草野:このあたりから上体が左へ傾いていくのですが、自分としては下半身のほうを意識していますね。身体の捻転プラス、いかに重心を左へ移して体重をぶつけるかを気にしています。

しなった竿先が曲がりの後ろへ隠れるのは、竿の軌道とオモリの軌道が一致している証拠。草野さんの背後に見えるオモリとの位置関係を見ればよくわかる。

④リリース直前

日置:草野さんのキャスティングは見た目の豪快さから強引な印象を受けるのですが、右足をしっかり蹴り込んで左足に体重を乗せ、身体の捻転を十分に活かしているのがわかります。竿を強く振るという意味では実に理に叶っていますし、竿も綺麗に曲がっていますよね。

草野:見事に縦振りに変化してますね(笑)。強く竿を振るよう心掛けた結果が今のフォームです。イメージとしては、上体を傾けたスリークォーターですね。

これは③とは少し角度を変えて撮影したリリース直前の竿曲がり。上体が左へ傾き、竿とオモリの軌道が斜めから縦へ変化している。

⑤フォロースルー

日置:投げ終わっても身体が前のめりにならず、竿尻を引き付けた左手も脇腹あたりできちんと止まっていますね。安定したフィニッシュです。

草野:左足へ体重を移動して竿にきちんとパワーを伝達できれば、フォロースルーでも足がピタリと止まります。気持ちいいですね。

リリース後は竿先をオモリの射出方向へ向け、弾道を目で追う。

日置淳さんのキャスティング分析

①スイング開始

日置:右足にきちんと体重を乗せられていますね。ここからの蹴り込みと身体の捻転でスイングにスピードを付けていきます。

草野:リラックスした姿勢だと思います。この時点での力みは一切ありませんね。

右足に体重を乗せ、ゆったりとスイングを始動する。リールはほぼ頭の高さ。腰の位置は草野さんよりも低い。

②スイング初動

日置:このときはキャストする方向を見て、胸を張るように心掛けています。僕の場合、左足を置く位置は比較的左寄りかもしれません。身体をやや開くことで、捻転の幅を広く取れますからね。

草野:力が入っていないように見えても、右足は力強く地面を蹴っていますね。日置さんはここからの体重移動がすごくスムーズです。

スイングを始めるとともに右足で地面を蹴り、左足へ体重を移動させていく。

③スイング加速

日置:スイングスピードがトップ近くまで上がり、リリースする直前くらいのタイミングですね。オモリの軌道がスイングプレーンと一致しているようですね。右足もうまく蹴り込んでいると思います。

草野:竿の軌道の後ろから、まっすぐオモリが付いてきています。これならば竿のパワーがロスなくオモリに伝わるはずです。

最短距離で竿を振り、スムーズに加速していく。リールシートの位置は頭より上の高さまで突き上げられている。しっかりと胸を張り、捻転の軸はブレない。

④リリース直前

日置:僕が力を入れて竿を振るのはこの瞬間だけです。飛ばそうとする気持ちが強いと振り始めに力が入ってしまいがちですが、はじめに力んでしまうとスイングがギクシャクしてスピードが出ないばかりか、仕掛けも絡みやすくなってしまいます。

草野:力みのないリラックスした振りなのですが、ここからリリースまではグッと力を入れているんですね。リールシートを握った右手首の角度もいいですね。手首が外側に開いてしまうと力が入らないうえ、オモリが竿の軌道の外側へ外れてしまうんです。手首は竿の軌道に対してまっすぐか、やや内側へ入るくらいがベストです。

③とは別角度で撮影したスイングがトップスピードに達する直前の写真。重心は9割方左足へ移動している。

⑤フォロースルー

日置:リリースした直後のタイミングですね。前のめりにならず、左足にもしっかり体重が乗っているので、うまく振れたと思います。

草野:日置さんのキャスティングはフィニッシュまで綺麗ですね。ここまでの体重移動も実にスムーズです。

リリース後の穂先はオモリの射出方向へ向ける。体重は完全に左足へ移動している。