原点流(げんてんりゅう) NL

長良川と吉田川の出会いに開ける郡上八幡は、古くから職漁師たちが竿一本でしのぎを削ってきた街。名うての腕利きたちがひしめくなかで、一心不乱に竿を振る東男がいた。この人物こそ郡上の釣りに魅せられた若き日の細山長司だった。今から30年以上も前の話である。
すでに国内の各地を釣り歩いていた細山の目をもってしても、郡上の釣りは群を抜いて優れていた。不意に大型が喰っても竿をのされない長手尻仕掛け。掛けた魚に合わせて下れない深みで、一歩も動かず一気に勝負を決める抜き。目にするものすべてが鮮やかだった。
なかでも「郡上竿」には多大な感銘を受けた。長手尻仕掛けを自在に操り、ジンタンシズを繊細に扱いつつ大オモリにも負けない穂先。サツキマスの強引を苦もなくタメ切る胴。彼らは、これ一本で落差のある渓流域から瀬、淵まで釣りこなしてしまうのだ。川とともに生きる職漁師たちの経験と知識が注ぎ込まれた郡上竿は、すべてにおいて理にかなっていた。
細山長司にとって、郡上竿はいわば〝原点〟。そんな郡上竿の伝統調子を現代の技術で磨き上げた『原点流』が、三度目の転生を成した。漆黒の節に込められた先人たちの叡智。電光石火の抜きが描く乱れのない軌道は、実戦に裏打ちされた郡上の信念を映す。

『原点流』は、文字どおり僕の釣りの原点である郡上竿の伝統的な調子にこだわった竿だ。郡上竿の特徴は数あるが、その最たるものは、ポイントと魚のサイズを選ばない「守備範囲の広さ」と、魚の走りを止めたら一気に勝負を決める「抜き調子」にあると思っている。

繊細さとタフさを併せ持つ調子は一般的な抜き竿とは一線を画すもので、初めてこれを手にした人には「妙なクセ」と取られるかもしれない。しかし、この独特な調子があるからこそ長手尻仕掛けを意のままにコントロールでき、小型のアマゴは穂先であしらい、大型のサツキマスは曲げ込んだ胴の粘りで勝負するという、郡上の職漁師たちが研鑽してきたクオリティの高い釣りを展開できるのである。

3代目の原点流は郡上竿本来の安定した〝抜き〟にこだわった。マイルドな２代目から比べると、初代のマニアックな調子へややシフトした感じだが、非常に取り回しが軽いうえ、「パラボラチューン」と「スパイラルX」によって曲がりの滑らかさは格段に向上し、ブレは極限まで抑えられている。

ぜひ、３代目「原点流」を振り込んでほしい。それまで感じていた「クセ」が「味」に変化したとき、この竿の素晴らしさを実感していただけるはずだ。

昭和24年4月東京都生まれ。
多摩川山女魚道主宰。多摩川をホームグラウンドに北海道、東北、北陸へと遠征する。年間釣行日数は約100日。
延竿で大物にチャレンジし続ける渓流大物釣り師の第一人者。