学習を積んだ賢い魚をいかに喰わせるか
和歌山県の龍神で生まれ育った私ですが、本格的にアマゴを狙い始めたのは10年ほど前になります。ご存じのように日高川の龍神地区は釣り人の多いエリアです。連日釣り人に攻められた日高川のアマゴは学習を積んでおり、通り一遍の釣り方では思うようには釣れません。
ひとたび警戒させると隠れて出てこない。不自然なエサは触ってもすぐに放してしまう。成魚放流魚はともかく、川で生まれ育った天然のアマゴは想像以上に賢いものです。自分が嫌ったエサを覚えているのか、一度掛け損なうと再度同じスジを流してもまず喰ってきません。
こんな魚を相手にいろんな方法を試すうちに辿り着いたのが、“軟竿”でした。柔軟な軟竿はエサを咥えた魚に違和感を与えにくく、スムーズに喰い込ませることができます。これはスレたアマゴに対して効果てきめんでした。しかし軟竿が持つメリットは、喰い込み性能だけではありません。
ひとつは『軽さ』です。軟竿の釣りに取り組み始めた当初はハエ竿を使っていたのですが、細身のハエ竿は非常に軽く、片手でも楽に仕掛けを振り込むことができます。この軽さは、テンポよく仕掛けを打ち込みながら釣り上がっていく私の釣りにおいて、大きなアドバンテージとなりました。
そしてもうひとつ、軟竿には「軽い仕掛けを正確に投入できる」というメリットもあります。テンカラ竿をイメージしていただくとわかりやすいのですが、全体が柔軟かつしなやかに曲がる竿はラインを招きやすく、軽いオモリでも狙った場所へ正確に投入することができます。
立ち位置より上流のポイントを攻める場合、投入後に仕掛けの流れるコースを修正することはほぼ不可能なので、仕掛けが着水した時点で流すスジが決まってしまいます。張りの強い竿で無理に軽い仕掛けを振り込むと力んでしまうばかりか、竿の振りに対して仕掛けが送れて伸びていき、投入精度が著しく落ちてしまいます。
ハエ竿を使い込むなかで、軟竿がもたらす多くの効能に気づくことができました。しかし、ハエ竿はあくまで流用であり、アマゴを狙うにあたっては「もう少しこうだったらな」と思う部分が少なからずありました。
たとえばフッキング性能。当たり前の話ですが、ハエ竿はハエ釣りのために作られた竿です。アワセた際にハエならスッと口元へハリが立ち込むのですが、硬いアマゴの口周りにはしっかりと掛かりません。軟竿で効率よくアマゴを釣るためには、いくつかの課題をクリアする必要がありました。
柔軟さを有しながらしっかりとフッキングパワーを伝達できること。そして軟竿であってもブレやネジレを抑え、正確に仕掛けを振り込めること。これらを軸として開発したアマゴ・ヤマメ用軟調竿が『テクニカルゲーム ストリームダンサー』です。この竿の完成により、私が思い描いた軟竿の釣りが、より理想に近づいたように思います。
軟竿釣法のタックル
普段、私が使っているタックルは下図のとおりです。
竿は軟竿釣法のために開発した『テクニカルゲーム ストリームダンサー』です。極軟調子でありながら穂持ち付近に張りを持たせており、軽いアワセでしっかりとフッキングさせることができます。
軟竿は胴ブレを起こしやすいものですが、スパイラルXとマイクロ超感トップの相乗効果でブレが抑えられ、投入後も速やかに穂先が止まります。非常に軽量で取り回しがよく、片手で軽快に仕掛けを打ち込んでいく私の釣りの要は、間違いなくこの竿といえるでしょう。
仕掛けはフロロカーボンの通し。0.4号をメインとして、魚の大きさや活性によってその前後の号数を使い分けます。目印をセットした状態で薄型の発泡仕掛け巻きにストックしておき、釣り場でハリを結べばすぐに釣りを開始できるようにしています。
手尻の長さは竿尻からマイナス15cm前後。軟竿は曲がり幅が大きいので、このくらいの手尻が仕掛けを振り込みやすく、また取り込みもスムーズに行えます。
軟竿と聞くと極細ラインを連想する方もいらっしゃると思いますが、私は不要に細いラインは使いません。基本的に私は立ち位置より上流のポイントを狙います。上流の魚は警戒心が薄いため、多少糸が太くても喰いに差はないと感じているからです。極細ラインも試してみましたが、オモリの周囲で絡まりやすいなどトラブルが多かったので現在の号数に落ち着きました。
ハリは渓流バリの2〜6号。川虫をメインエサとしているので小さめを揃えています。4号を中心に、喰いが悪ければ小さく、ハリ外れが多ければ大きめといった具合にローテーションしていきます。石に当たるなどしてハリ先が傷みやすいので、ハリはマメに交換することをおすすめします。
オモリはゴム張りタイプのガン玉を愛用しています。5号をメインとして、渇水時は6号、増水時は4号まで重くすることもあります。比較的軽めのオモリを常用していますが、立ち位置より上流を攻めるのを基本としているため、この号数でも問題なく仕掛けがなじみます。
エサ使い
エサはほぼ100%川虫を使います。解禁してすぐはイクラでもよく釣れますが、一週間もすると川虫への反応が俄然高まります。解禁してしばらくはキンパク、キンパクが採れなくなるとヒラタがメインになります。
エサ使いで心掛けているのは、常に元気な川虫を使うことです。死んだ川虫は明らかに反応が落ちますし、アマゴの活性によっては足が数本取れた川虫も見切られることがあります。
よってハリへの装餌法も川虫が弱りにくく、動きを妨げないチョン掛け。掛け損なって少しでも川虫が傷んだら、すぐに元気なものに付け替えるようにしています。
ポイントの設定
タックルの解説部分でも触れましたが、私が提唱する軟竿釣法では立ち位置の上流側にポイントを設定し、可能な限り下流からアプローチすることを基本としています。そして一度立ち位置を決めたら、そこの上流側180度の範囲で考え得るすべてのポイントへ仕掛けを入れます。
下流側から攻める理由は、魚を警戒させたくないからです。アマゴは上流を向いた姿勢で定位し、流れてくるエサを待っています。ポイントの下流側、つまり魚の後方からアプローチすることによって、警戒させずに喰わせるという寸法です。落差のある上流域での釣りを、そのまま渓流域でやっていると思っていただければよいでしょう。
考え得る限りのポイントに仕掛けを入れるのは、流れや地形のちょっとした変化にもアマゴが着いているからです。アマゴ釣りといえば、水深のある流れ込みが鉄板のポイントとされています。このような流れの集まる場所には流された川虫も集まるので、好ポイントであることには違いありません。特にシーズン初期の水温の低い時期は、流れ込みに狙いを絞るほうが確実ともいえます。
ただ水温が上がってくると、水深のある場所を狙ってもカワムツやウグイなどの他魚が先に喰ってしまうといったケースが増えてきます。またこのような好ポイントは誰もが攻めるので、アマゴは釣られているか、残っていてもスレてしまっていることが多いように思います。
そこで目を向けたいのが、先に述べた「ちょっとした変化」です。水温が上がり、活性が高まったアマゴは浅い瀬にも出てきます。浅場の落ち込み、石裏のヨレ、チャラ瀬の白泡、波目など、一般にB級、C級とされる、多くの釣り人が素通りするようなポイントにもアマゴが着いています。いわゆる“竿抜け”です。
釣り人の多い河川ほど、当たり前のポイントは攻められています。誰もやらない場所を攻めること。これが激戦区で釣果を上げる秘訣のひとつといえるでしょう。
釣り方・一連の手順
ポイントの下流側に足場を取り、警戒心の薄い上流の魚を釣っていくのが私のスタイル。立ち位置を決めたら上流側のポイントへ仕掛けを振り込み、立ち位置近くまで流したら上げてしまいます。このような釣りなので1投のスパンは短く、テンカラ並みに手返しの早い釣りになります。
流れのカミに投入すると、仕掛けが振り子のように手前にもたれて素早くなじみます。軽いオモリで釣りが成立するのはこのため。仕掛けのなじみが早いということは、投入後すぐに喰わせの体勢に入れるともいえます。
一般的な渓流釣りでは投入後に穂先を送るなどしてオモリを底波に入れる必要がありますが、上流を狙うこの釣りにそのような操作は不要です。むしろ着水直前に穂先からオモリまでの糸を張り、仕掛けを伸ばした状態でなじませるほうが上波に糸が取られず、スムーズになじみます。
仕掛けを流すときは、オモリの真上に穂先がくるようにし、オモリを吊るようなイメージで流れなりに流します。アタリがあればそのまま真上へアワセを入れ、よほどの良型でない限りは魚がカミにいるうちに引き抜いてしまいます。
立ち位置の上流を狙うこの釣りでは、穂先の位置を適切に管理することによって、オモリまでの糸を自然に張りつつ、不要に穂先を利かせない状態を演出できます。優れた喰い込み性能は軟竿の特権。穂持ちにやや張りを持たせた『テクニカルゲーム ストリームダンサー』ならば、アワセもシャープに決まるはずです。
立ち位置より上流で喰わせ、上流で浮かせて取り込む。これが『テクニカルゲーム ストリームダンサー』の特性を最も活かせるアプローチ法といえるでしょう。