2019.04.05
12フィートクラスのシーバスロッドにナイロンライン4号を直結。底を取ったら、そのままズル引き─
30年ほど前、釣り雑誌で紹介されていたアオリイカ釣りは、だいたいこんな感じだったと記憶している。専用ロッドどころか、エギングなどという言葉さえなかった頃だ。
釣りの世界は日進月歩。アオリイカのエギングもこの30年で急速に進歩、発展した。かつては漁具のひとつにすぎなかったエギも、いまやルアーフィッシングカテゴリーの一翼を担うようになったのである。このように専門色が強まる釣りがある一方で、異なる釣りが融合して新たなジャンルとして確立した釣りもある。
たとえばひとつテンヤ。手バネ竿を用いたり、“ビシマ”と呼ばれる小さなナマリを等間隔で打ち付けた道糸の先にテンヤを結んでマダイを狙う釣法は、今でも根強い人気のある釣りだ。これとルアータックルが融合することで、ライトでスタイリッシュな釣りとなり、いまや本家と肩を並べるか、すでに追い越したのではないかと思うほど急速に普及している。
投げ釣りの世界においても、オモリで遠投して海底にエサを置く本来の釣り以外にも、他ジャンルのエッセンスを取り込むことで、新たな釣りとして確立されつつあるものもある。そのひとつが今回ご紹介する「投げエギング」だ。
投げエギングとは、投げ釣りの遠投タックルの先にリーダーを介してエギを結び、通常のエギングでは届かないポイントのアオリイカを狙う釣法である。まだ未開の釣りではあるが、各地で着実に実績を積み重ねつつある。今回は投げエギングの開拓者のひとりで関東を代表するパワーキャスター、山本修さんの釣行に同行させていただいた。
「僕自身もそんなに前からやってるわけじゃないんですよ。2年くらい前かな、ブッコミアジで神奈川県の国府津海岸を訪れたとき、投げ竿でエギをブン投げてアオリイカを釣っている人がいたんですよ。その日はアジが不調でね、しばらくその釣りを見ていたんだよね。『へぇ〜あんなんでアオリイカが釣れるんだなぁ』って思って、見よう見真似で始めたのがキッカケです」
タックルは投げ釣りとまったく同じ。L型テンビンの先に付いているものが、ショックリーダーとエギに変わっただけである。かつては投げ竿を担いで年中シロギスを追いかけてきた山本さんなので、タックルを新たに揃える必要もなかった。
「やってみたら釣れるんですよ。そりゃ通常のエギングでは届かないポイントを攻めて、まだエギを見たこともないウブなイカを狙っているわけですからね」
この日の釣り場は、山本さんが投げエギングを覚えた国府津海岸。時刻は16時。まずは通称「のんき亭下」で竿を継いだ。山本さんのアオリイカ釣りは、夕マヅメからの半夜釣りがメインである。いつもは箱根連山に日が隠れてから釣りを始めるとのこと。この日は撮影なので早めのスタートである。
エギはシロギスの吹き流し仕掛けよりも空気抵抗が大きく、通常の投げ釣りのように7色、8色といった遠投は利かないが、それでもフルキャストで100m前後は投げられる。一般的なエギングタックルでは未到の領域である。
投げた仕掛けが着底したら、糸フケを取って軽く1〜2回竿をシャクリ上げてリーダーがまっすぐ伸ばす。ここからはいわゆるズル引きである。
「時々竿を煽ってアクションを付けたりしますが、重いテンビンが間に入っているので、エギがダートするほどのレスポンスは望めません。基本はズル引きで、ちょっとエギを目立たせるくらいの気持ちですね。引くスピードはケース・バイ・ケース。アオリイカの活性を伺いつつ速めたり遅くしたりしたりです。これで反応がなければエギのカラーを変えます。いくらウブな個体といっても、何度も同じエギを見せると見切るようで、カラーチェンジした途端にドスンと乗ってくることもありますね」
それでもダメならポイント移動。国府津海岸のような広大なサーフは、ポイントがいくらでもある。渋い場所で粘るよりも、足でやる気のあるアオリイカを探すほうが効率的なのである。
しかしこの日はアオリイカの活性がいまひとつ。居合わせたエギングの釣り人に聞いてもアタリはないとのこと。いつしか日はとっぷりと暮れていた。渾身のキャストを繰り返すも、ただ時間だけが過ぎていく。さすがの山本さんも竿を置いて腕を組んでしまった。
「今日の干潮は20時30分。この下げ止まりがチャンスだと思うんですよね。思い切ってポイントを移動しましょうか」
漆黒の砂浜を500mほど歩いただろうか。山本さんが荷物を置いたのは西湘バイパスの国府津インター下。森戸川の河口にあたり、インターチェンジの常夜灯が海面を照らすポイントである。
エギはイカの活性が低いと判断して小さめのエギをチョイスした。扇状にエギを投げて広範囲に探るが反応はなし。ついに期待の下げ止まりを過ぎてしまった。
「21時までやってダメなら出直しましょうか」
そんなことを口に出そうとしたときだった。
「乗ったよ!」
暗闇の奥で山本さんのヘッドライトが光った。『スピンパワー365FX+』の穂先が、ゆったりともたげている。この伸びやかな引きは、紛れもなくアオリイカである。
波の強弱に合わせてゆっくりと寄せ、慎重に浜へズリ上げたのは600g前後の本命。触腕1本でカンナに掛かっていた。
「いやぁ、釣れなくてどうなることかと思いましたよ(笑)。サイズは控え目だけど、とりあえず釣れてよかった」
エギングでは釣れないアオリイカを釣るためのエギングは、投げタックルだからこそ成立する釣り。実践する釣り人が少数で、まだまだ発展途上。この釣りが、この先どのように進化していくのだろうか。
vol.2に続く