2018.7.19

誰よりも数を釣りたい!競技会の釣りを考察する [ 伊藤 幸一 ]

Vol.4 競技の釣りケース・バイ・ケース

競技会で勝つためには?

競技方式を計算した試合運び

競技会でコンスタントに勝つためには、「ポイントを見ること」「ポイントへ仕掛けを投入できること」のほかに、「巧みな試合運び」というスキルが必要です。ポイントを正確に見抜く人はたくさんいます、私よりも遠投できる人もたくさんいます。なのに、なぜか競技会で勝てないという人の多くは、この試合運びがうまくいかないからではないでしょうか。

競技会といっても大会によってルールは様々です。ローカルな大会では一斉に竿を出す一発勝負スタイルもありますし、ジャパンカップのように、いくつかのエリアを数試合で使い回すスタイルもあります。どのように試合を運んでいくかはケース・バイ・ケース。他の選手よりも多く釣ろうと思うのなら、まず自分が出る大会の競技方式を考慮して立ち回る必要があります。

会場(釣り場)によって釣れ方が違うので、ひと言で「こうすればよい」とは言えないのですが、ひとつだけ言えるのは、可能ならば下見は行ったほうがよいということです。どの距離で釣れるのか、どのポイントで釣れるのか。ジャパンカップのセミファイナル、ファイナル大会が行われる鳥取県の弓ヶ浜などは横方向へいくらでも動けるので、左右を探るだけでもおおよその傾向はつかめるはずです。下見で得た情報は、試合でも大いに役立ちます。

競技会で勝つには、ポイントを見る目、正確なキャストや遠投力以外のスキルも必要。競技方式を考慮して効率のよい試合運びを心掛けましょう。

1回戦よりも2回戦以降が大切

下見を行い、シロギスが濃いポイントが見つかったとします。いざ試合となったとき、釣り座の優先順が若いのであれば、下見で釣れた場所へ真っ先に向かえばよいでしょう。特に全選手が一斉に竿を出す一発勝負の大会では、狙いの場所に入れただけで、かなり有利であるといえます。

しかし、2試合以上の総合釣果で順位を決定する大会の場合は、1回戦よりもむしろ、それに続く2回戦、3回戦のほうが大切です。
1試合目で叩かれたポイントは魚が釣られており、魚が残っていたとしても、何度もオモリが投げ込まれて相当ナーバスになっています。

いくら1回戦で釣れたポイントであっても、2回戦以降も同じように釣れるとは限りません。ガタッとアタリが減ってしまうのが普通です。

同じポイントを攻め続けるとシロギスの喰いも落ちます。1回戦目よりむしろ、2回戦、3回戦の立ち回り方が重要です。

釣れていたポイントで喰わなくなったときにどうするか。1回戦以降の展開を予測して、次の手を考えておくことが重要。多くの人は1回戦を一生懸命戦ってしまいます。一生懸命なのはよいのですが、ここですべてを出し尽くしてしまうと、2回戦、3回戦で失速してしまいます。常に先の展開を考え、集中力や体力も温存しておきましょう。

実例・私はこうして勝ち抜いた!

事前の下見は多角的に行う

喰わなくなったときにどうするか。これは下見の仕方にかかっています。大会前の下見は釣れるポイントをリサーチするためのものです。しかし、最も釣れるポイントを見つけただけで満足してしまうと、そこが釣れなくなったら手詰まりになってしまいます。

下見は多角的に行い、本命ポイントでアタリがなくなったときのサブ的なポイントを、できるだけ多くサーチしておくことです。また、よく釣れているポイントで、どの程度釣り続けたら釣果が落ちるのかといった視点でも下見をしておくとよいでしょう。下見であっても釣れるポイントで竿を出したいのが普通ですが、あえて釣れなくなるまで攻めてみることで、試合でのポイントの見切りも早くなります。

2010年ジャパンカップのセミファイナルでのことです。その年の弓ヶ浜はシロギスが非常に濃かったのですが、釣れる場所が偏っていました。下見を行った他の選手も当然それを知っていたので、1回戦目も2回戦目も選手がそこに集まり、釣果もそれなりに出ました。

釣れなくなったときにどうするか、どのくらい攻めたら喰いが落ちるかまで含めて下見を行うようにしましょう。

そして3回戦目、2回戦にトップだった方がやっていた場所は当然人気で、釣り座優先権で早くスタートが切れる選手は一目散にそこへ向かいました。私のスタート順は8番目前後で、選手全体で見れば真ん中あたりです。本命ポイントへ向かったところで入れるとは限らないし、入れたとしても窮屈な釣りになります。そこで私は、ひとり離れたサブのポイントへ入りました。ここは本命ポイントが入れ喰いのときはまったく魚がいないのですが、風が吹いてくると魚が入ってくるということを下見でつかんでいたのです。

これが大正解でした。散々叩かれた本命ポイントは不発です。私が攻めたポイントはこれまで誰も攻めていない竿抜け。ちょうど風が吹き始めたこともあって、回遊してきたフレッシュなシロギスがバタバタと喰ってきました。

「よいイメージ」に固執しないこと

よいイメージを払拭するのは実に勇気がいることです。しかし、釣れているなかでも他の選手と同じことをしていては、なかなか順位を上げることはできません。

ある年のジャパンカップのファイナルでは、近いポイントでシロギスが釣れているとの事前情報がありました。下見をするとなるほど、確かに至近距離で活発に喰ってきます。しかしサイズは小型が中心でした。
そこで思い切って遠投してみると、かなり遠いポイントでもシロギスが喰ってきました。それも手前で釣れる魚よりはるかに良型です。

そして大会当日、多くの選手が至近距離を手返しよく狙っていました。釣ったシロギスの総尾数で順位を決める大会であれば、近場の手返し勝負に徹するのもアリでしょう。しかしジャパンカップは、釣ったシロギスの総重量で競う大会です。数を釣るなかで、いかに良型を絡めていくかが重要なのです。

釣れている近場をあえて捨て、私は超遠投で攻めました。数では近投の手返しが早い釣りには敵いませんでしたが、重量面でかなり有利に試合を運ぶことができました。

釣れているからよしとするのではなく、ときとして目線を変えることで好成績を得られることもあるという一例です。

他人と同じことをしていては上位に食い込めません。釣れないときはもちろん、釣れているときでも考えることはたくさんあります。

これから競技の釣りを目指す人へ

いろんな釣り場で竿を出すこと

これから競技の釣りを目指す釣り人にアドバイスするなら、いろんな釣り場で竿を出すということです。特に大会会場と似た環境の釣り場で「掛け感」を養うとよいでしょう。

魚の薄い釣り場で1尾を確実に喰わせるのが技術なら、魚の濃い釣り場で1尾でも多く魚を付けるのも技術です。
全国規模の大会になると、魚影の濃い釣り場で開催されるのが一般的です。
特に関東のようなシロギスが薄い釣り場をホームグラウンドにしている方は、日本海などの魚影が濃いエリアで竿を出してみることをおすすめします。

私のホームグラウンドである湘南エリアは、さほどシロギスが濃い場所ではありません。
初めて日本海で竿を出したときは、その魚影の濃さに驚いたものです。ホームグラウンドを持つのはよいことですし、魚が少ない場所で腕を磨くことにもメリットはあります。
ただ、誰よりも数釣ることを目指すのであれば、釣り方にせよ仕掛け使い、エサ使いにせよ、試合会場の環境にマッチしたものを知る必要があると考えています。

試合での「掛け感」を身に付けるには、大会会場と似た環境の釣り場で練習するのが一番です。

同じ攻めを三回繰り返さない

私が日頃から心掛けているのは“同じことを三回繰り返さない”ということです。
1投目はたまたま喰わなかったということもあるので、もう一度同じポイントを同じ釣り方で攻めてもよいでしょう。
しかしこれで釣れなかったのであれば、下見のときとは状況が変わっているということ。もう一度同じ攻めを繰り返すのは無駄だと考えています。とりわけ投げ釣りは1投のスパンが長い釣りです。釣れない攻めを繰り返しているうち、気づけば30分近く時間が経っていたということもありました。

どんなに綿密に下見を行ったとしても、一夜明けると状況が一変してしまうこともあります。前日までの「釣れるイメージ」と、現在の状況にギャップができると、攻めにも迷いが生じます。こんなときは下見で得た情報にこだわらず、目の前の状況を優先することです。

釣れない攻めを繰り返しても結果は同じ。常に次の一手を考え、早い見切りを意識しましょう。