2018.8.22
フロントガラスの水滴をワイパーが忙しく拭き払っている。夜半からの雨が依然として降り続いていた。
「ちょっとこの雨足じゃ撮影どころではないでしょう。夕方前には上がる予報なので、コーヒーでも飲みながら待機しましょうか」
今回は、これから本格的な投げ釣りを始める釣り人に向けた、レクチャーの撮影を兼ねた釣行である。釣り人はハゼから大物まで釣りこなす投げ釣りのマルチプレーヤー・日置淳さんだ。
時期は5月中旬。八十八夜を過ぎ、シロギスシーズンが開幕したばかりのタイミングである。できれば五月晴れの抜けるような青空の下で竿を振っていただきたいのであるが、天候だけは仕方がない。日置さんに近況を聞きながら、コーヒーショップで時間を潰す。
「シロギスはボチボチ釣れています。直前に行われたジャパンカップの中四国大会では場所によって釣果にムラがあったのが気になりますが、うまいこと連で掛けるところをお見せできればいいんですけどね(笑)」
3時間ほど与太話に興じていると、次第に空が明るくなってきた。
「小降りになってきましたね。のんびり出かけましょうか。明日はレクチャー用の写真も撮らなければいけませんし、今日中にええ型を釣っておきたいですね」
日没までは3時間ほど。日置さんには撮影のことは気にせず、釣りに集中していただくことにしよう。
鳥取県の西端に位置する弓ヶ浜は、全長約17kmの浜である。ちょうど米子と境港の町をつなぐような形で広がっているが、太古の時代は境港市部は陸から離れた島であり、日野川から流れ込んだ土砂が堆積して砂州を作り、陸続きになったそうだ。
白砂が美しい砂浜である。
釣り場としてはシロギスが非常に濃い場所として知られ、シマノジャパンカップでは1995年の第11回大会から全国決勝大会の会場となっている。
ただし、シロギスの魚影が濃いといっても条件によって群れの寄り場が変わるため、どう攻めても釣れてくれるわけではない。遠投がよいときがあれば、チョイ投げで数が伸びることもある。数がいても小型ばかりのポイントがあれば、数は少なくても良型が揃うポイントもある。
どこをどう攻めればよいかはその日の条件次第であり、当日の状況をいかにして見抜き、立ち回るかが大切だ。
「シロギスのポイントはカケアガリになるのですが、台風などによってカケアガリの場所が年ごとに変わるんですよ。また、数段あるカケアガリのうち、どこにシロギスが着いているかを見極めないと、なかなか釣果が伸びませんね。魚影が濃い場所だからこそ考えなければならない要素もあるんです。」
小雨がパラつくなか、日置さんがまずクーラーを置いたのは美保湾展望駐車場下。
「まずはここから様子を見てみましょう」
この日、日置さんが選んだタックルは「サーフゲイザー〈並継〉405CX」と「サーフリーダー CI4+ 35極細仕様」のセット。ラインはテーパーライン(力糸)と一体になった「KISU SPECIAL EX4 PE テーパー06号」である。
「これから本格的なシロギスの引き釣りを始めたいという方におすすめのセットです。7色、8色といった遠投も可能で、軽くて高感度。
いわゆるエントリークラスのタックルではありますが、必要十分以上の性能を有しています。今日はこれでくまなくポイントを探ってみます」
釣り始めて間もなく、日置さんはポイントを探り当てたようだ。サイズは17〜18cmを中心に、時折20cm近い良型も喰ってくる。
「だいたい4色(100m)前後で喰ってきます。ビギナーでもコツをつかめばすぐに投げられる距離ですね」
超遠投ではないにせよ、コンパクトロッドなどによるチョイ投げタックルでは届かない距離である。ときとしてこれ以上沖を探ることを考えると、やはり専用の投げタックルが必要になってくる。
やがて夕方、流れ込み付近のポイントを攻めると22〜23cmがヒット。納得のサイズが出たところで、この日は納竿とした。
明けた翌日は青空が広がった。暑くも寒くもなく、ドライシャツ一枚でちょうどよい気候。絶好の投げ釣り日和である。この日は前日よりもやや境港寄りの場所からスタートした。
朝イチからアタリはある。しかし、前日よりも釣れてくるシロギスの型が小さい。またアタリ自体も散発である。ここで日置さんは遠近のポイントを縦に探り始めた。
「カケアガリを探っているんです。単調に見える砂浜でも、カケアガリのある場所とない場所があります。そのカケアガリも幾段か連なって沖の深みへ落ち込んでいますので、どのカケアガリに群れが回ってくるか、なんですよね。アタリがないとき、また魚が小さいときは沖からゆっくり仕掛けを引いてきて、最もよく喰うカケアガリを探すことです」
2色前後の近場でもアタリはあったが、遠投した7色付近で喰ってくる魚のほうがサイズもよいようだ。
アタリが散発になると、今度はクーラーを担いで移動。
「同じポイントを繰り返し攻めると、魚が警戒するのかアタリがどんどん遠くなります。こんなときはアタリが途絶えるまで粘らず、潔くポイントを見切って移動するほうがよいでしょうね。10m横へ動くだけでも釣れ具合が変わりますから“キスは足で釣れ”の格言どおり、積極的に動くことです」
その言葉どおり、初めてオモリを入れるポイントでは小気味よいアタリでフレッシュなシロギスが釣れてくる。大きな群れが回ってくると連掛けも見られた。
「シロギスの活性が高いようなので、ちょっと欲張ってみましょうか(笑)」
アタリが出たところでサビくスピードを緩め、仕掛けが絡まない程度にゆっくり引いてくる。頃合いを見て巻き上げると、18〜20cmが5連でハリ掛かりしていた。
5月の陽光に照らされた魚体が美しい。弓ヶ浜の白砂を映したかのようなパールホワイトである。
「このサイズがハリ数いっぱいに付いてくると気持ちいいですね。満足です(笑)」
vol.2に続く