JOURNAL
レイクトラウトはヒメマスを食べ尽くしてしまうのか
遅ればせながら明けましておめでとうございます。年が明け4月の中禅寺湖解禁を控え早くもソワソワしているショータ・ジェンキンスです、本年もよろしくお願いいたします。
元々魚の棲んでいなかった奥日光で釣りの歴史が花開いたのは明治初期。西洋のトラウトフィッシングの文化が伝わり、以降鱒釣りの聖地として愛され続ける訳ですが、レイクトラウトのイメージも強い中禅寺湖で地元の人達に一番愛され、その姿を渇望されているのはヒメマスで間違い無いでしょう。今回はそんなヒメマスをめぐり、中禅寺湖で今自分が取り組んでいる運動について紹介させてください。
ヒメマス放流120周年の記念イヤー
なんと中禅寺湖のヒメマス放流事業がスタートしてから今年で120周年。ちなみに僕の大好きなレイクトラウトが放流されたのはちょうど60年前、1966年と記録されているのでさらにその60年前からヒメマスと中禅寺湖のストーリーは始まっていたんですね。全然関係ない話ではありますが、何の因果か1966年はサッカーの母国イングランドが唯一W杯で優勝した年でもあり、それ以降一度もメジャーな国際大会でタイトルを手にしていません。イギリス好きとしてはそれも看過できない重要な問題ですがそれは一度置いておきましょう。
遡ること明治39年、十和田湖から初めてヒメマスが移入され、その後もいくつかの湖からの移入や、カナダからベニザケを移植した経緯もあったり(!)、漁協による稚魚放流と自然再生産の両方で長い時間をかけて中禅寺湖のヒメマスは定着し、種卵生産拠点の一つとなりました。中禅寺湖から今度は全国各地に卵を供給する場所になった訳です。
それだけ歴史のある魚です。そもそも紅鮭(ベニザケ)の陸封型であるヒメマスはひじょうに美味しく、それを釣って食べるために漁協の組合員になる人も多いですし、観光客に振舞われる特産品としても人気で、日光市の「市の魚」にも指定される程、地元の人達にとってはなくてはならない存在なのは確か。中禅寺湖畔を歩けば、他の魚の名前は見ないけど「ひめます」の文字は見つけることができるはず。
「昔は良かった」日本寂し話
10年程前までは秋になると菖蒲ヶ浜キャンプ場付近を流れる湯川や地獄沢(中禅寺湖に流れ込む湯川の支流)に大量のヒメマスが遡上する姿が見られました。ヒメマスは水の中の紅葉とも揶揄される程に真っ赤に染まり、屈斜路湖や十和田湖など、日本各地で秋の風物詩になっています。しかしここ数年、中禅寺湖ではその数が激減し、毎年漁協が遡上したヒメマスから採卵し孵化させる地獄沢では、数年前に確認出来た遡上数が数匹だった事もありました。
その要因は様々な仮説があり、レイクトラウトやブラウントラウトによる食害だという人もいれば、幼魚期に食べるプランクトンがワカサギとバッティングするためだったり、自然再生産ではなく採卵・孵化・放流を長期間続けたから、などなど。自分は研究者ではないですし、どうやら今のところ明確な原因は分かっていないそうですが、きっと理由は一つではないのだと思います。そもそも自然を100%理解すること自体無理なのかもしれません。
兎にも角にも、地元の名産品として観光客にも地元の人達にも愛されていたヒメマスの数は減り、ヒメマスを楽しみにしているトローリング客も減り、いつの間にかヒメマスにまつわる話はまるでバブル時代を懐かしむようなお決まりのストーリーになってしまったのでした。
居ないなら増やす?
「魚が減ってしまったならもっと放流しよう。」きっとこれが最近まで普通に考えられていたことだと思います。しかしなんとなくですが、釣り人達の共通認識の中に過度な放流や人為的に魚を増やすことへの疑念があるように感じます。僕自身もそう考えているし、自然の中で魚が自分たちの力で繁殖しその数を増やすことが一番、それを手助けするのがベストなのではないかと。
そこで今僕たちが行っているのが発眼卵放流です。中禅寺湖の漁協の厚意で孵化する直前のヒメマスの卵を提供していただき(なんと無償で)、その卵を特殊な装置を使って西側の流入河川に埋設するというもの。またの名をヒメマスアクション。
実は過去に西側の幾つかの流入河川に遡上し産卵していた、千手ヶ浜などの湖畔でも産卵していたという情報もあり、この辺にヒントが隠されているように感じます。2023年に菖蒲ヶ浜に遡上した親魚の約4割に脂びれがあったという記録があるのですが、基本漁協によって放流された魚は全て標識のために脂びれがカットされています。そうなんです、半分近くの魚が自然再生産だったということなのです。
漁協が資源回復のために様々な手を尽くしているにも関わらず、未だ問題の究明には至っておらず、そこで僕達も同時進行で違う方法でトライしているところ。100年以上の歴史とプライドと共に中禅寺湖のヒメマスを見守ってきたにも関わらず、こんなある意味素人の挑戦に卵を提供してくれたりと協力してくれる漁協には本当に感謝しかありません。
今回は割愛しますが、そもそも漁協は湖は川の管理人や釣り人のために働くスタッフという位置づけではありません。興味のある方は一度漁協とは何なのかを調べてみると面白いと思います。釣れないからといって文句を言うのは完全に筋違いだったりします。
彼らは帰る場所をわかっている
さて、その発眼卵放流も去年で3回目となりました。ヒメマスは母川回帰性が強く、約2年の間湖を回遊しその多くが生まれた川へ帰ってくると言われています。僕らが卵を埋めた柳沢川ベビーは柳沢川へ、漁協が育てた菖蒲ヶ浜ベビーは菖蒲ヶ浜へ。
そしてもしも初年度に埋めた卵がうまく孵化し湖に降り、気の早い親魚が川に戻ってくるとしたら今年の秋ということになります。本当に長い道のりと、気の遠くなるような狭き門を生き抜いた魚だけが帰って来られる。
柳沢川は決してヒメマスのためだけの川ではありません。産卵床を作る場所をホンマスと取り合い、少し時期をずらして今度はブラウントラウト達も遡上してきます。ヒメマスより少しタイミングの早いホンマスの産卵床を避けて発眼卵を設置したり、ブラウントラウトが遡上して来づらい場所を選んだり、埋め方だけでなく色々なことをこの3年で勉強できた気がします。
大袈裟かもしれませんが、我が子のように可愛いヒメマスの帰還を待っているんです。もうすっかり水の冷たくなった秋に皆で卵を埋め、雪の積もり始める冬に孵化の確認をして孵化カゴを回収する。魚が大好きなのに魚を釣るというパラドックスを抱える釣り人として、僕はヒメマスに近付き過ぎたと思う瞬間さえあります(笑)。
ヒメマスが帰ってくれば地元は元気になる
僕は宗教上の理由から(単純に鮭は生で食べるなと親父に言われて育った)今もお寿司屋さんでサーモンが食べられないのですが、もう7年だか8年前に釣れたヒメマスをお刺身にしてもらったことがあって、その時はペロっと食べられてしまった思い出があります。「美味しいでしょ??」とお刺身を出してくれたある組合員の方の笑顔も忘れられないし、釣りをやらない人でもヒメマスと聞けば中禅寺湖を思い出したりする。
前述した通り、ここ10年か20年の間に中禅寺湖で釣りを始めた釣り人の多くはレイクトラウトというイメージが強いと思いますが、地元の人達にとってはやっぱりヒメマスなんです。去年初めて組合員の皆様と一杯やりながら話す機会がありましたが、やっぱり最後に名前が出てくるのはヒメマス。嫉妬するぐらいにヒメマス(笑)。
そんな人と湖を繋ぎ、人を笑顔にする魚。彼らが帰ってきたら、僕は中禅寺湖が少しだけかもしれないけど元気になるような気がしてます。わざわざNPOまで作って一体何がしたいのか?自然環境の保全に釣り文化の保存、テーマはたくさん転がっているけれど、結局のところ地元の人達がハッピーじゃないと意味がないんです。いつ頃からか忘れたけど、僕はそんなことを結構本気で考えてます。
もう一つの活動の柱「湖底清掃」
ヒメマスアクションともう一つ、僕達が今本気で取り組んでいるのが中禅寺湖の湖底清掃。9月20日にトラウトの禁漁を迎え、9月の下旬から10月中旬の間に計6日間の湖底清掃を行い、2025年に回収出来たルアーの合計数は3904個でした。
普段から水中の清掃に携わるMarineSweeperさんの協力の下、ダイバー数名に湖に潜ってもらい手作業でルアーやラインごみを取り除く作業。決して大きな湖ではない中禅寺湖ですが、気の遠くなるような道のり。
ダイバーチームとそれをサポートするボートチーム、そして陸上で仕分け作業などを行うチームに分かれ、根掛かりの多そうなエリアを重点的に清掃しつつ、潜ったからこそ分かった情報をもとに次の清掃箇所を選んでいく。この活動も去年で3年目を迎えました。
唐突に湖底清掃についてざっくりと書かせてもらいましたが、中禅寺湖の釣りの歴史の中でもダイバーが潜りルアーを回収するというのは初めてのことでしょう。時には100年以上前のビールのボトルなどまさに「湖の歴史」を拾い上げていく訳で、当然長い間湖底で眠っていたルアーたちにも出会います。そういう意味ではトーマスグラバーとかハンスハンターといった明治の先人達の根掛かりを回収してしまうかもしれない。
まぁそんな半分冗談半分本気の浪漫はさておきSDGsや環境への意識が問われる昨今、自分は釣り人の意識や果たさなければいけない責任を感じています。僕にとって特別な存在である中禅寺湖だからこんなに熱くなるのは間違いないですが、どこの水辺にだってそこを本気で愛するアングラーが必ずいるはず。ちょっと長くなってしまいましたが、誰よりも水辺に立つ釣り人だから見えるモノ、出来るコトがまだまだたくさんあるかもしれない。
少しでも興味のある方は是非【こちらのリンク】から動画もご覧になってもらえたら嬉しいです。2026年はもちろんたくさん釣りにも行きますが、こんな「釣りをしない時間」も目一杯楽しみたいと思います。皆様にとっても良い1年になりますように!!
TACKLE & EQUIPMENT タックル&装備
使用タックル
ウェーダー:DSストレッチウェーダーPRO Z ソックス
シューズ:ジオロックウェーディングシューズPRO カットピンフェルト
カメラ:GR3(RICOH)
※記事内で紹介されている製品は、旧モデルの可能性がございます。