2018.4.23

誰よりも数を釣りたい!競技会の釣りを考察する [ 伊藤 幸一 ]

Vol.1 競技会の釣りってどんな釣り?

競技会の魅力

勝つことへの憧れ

釣りの楽しみ方は人それぞれです。釣果にこだわらず休日をのんびり楽しみたい。仲間とワイワイ楽しく竿を出したい。1尾でもよいから大物を釣りたい。誰よりも数多く魚を釣りたい……。釣りにどんな楽しみを見出すかはその人が決めるものであり、どれもが正しいと思います。

数ある釣りの楽しみの中に「人と競う釣り」があります。シマノジャパンカップをはじめとする、競技会がこれにあたります。私もそんな競技の釣りに魅せられたひとり。その魅力は何かと聞かれたら、名誉欲と答えるかもしれません。

私が競技会に出始めた頃は、全国大会で勝とうなどという気持ちは一切ありませんでした。仲間数人と予選にエントリーして、競技会の雰囲気を味わったのちに参加賞をいただくだけで満足していたものです。

しかし、予選からセミファイナル、決勝大会へと勝ち抜いていく選手を見て、いつしか憧れるようになりました。
私はサッカーやMotoGPが大好きなのですが、大舞台で活躍するプレイヤーたちを観て、「あんなふうになりたいな」と思う気持ちと同じです。

遊び半分で参加した競技会ですが、いつしか勝つことに憧れ、人と競う釣りに傾倒していきました。

限られた時間の中で結果を出すこと

私はプライベートと競技会では、はっきり釣りを分けて考えるタイプです。詳しくは後述しますが、楽しむ釣りと競う釣りで、何が一番違うかというと「心構え」です。普段の釣りは、一日のなかで釣りを組み立てて、満足のいく結果が得られればよいのですが、競技会は1時間30分、2時間といった限られた時間のなかで、誰よりも魚を釣らなければ優勝はできません。

特に投げ釣りは1投のスパンが長い釣りです。手返しでもたついたり、仕掛けのトラブルなどで時間を取られてしまうと、これが後に大きなロスとなって釣果に影響します。そのために事前準備や釣り場での立ち回り方に気を遣うわけですが、勝つことを目標としていると日々の努力も楽しいものです。

また、競技の釣りを突き詰めることによって、自分の釣りに“効率”が生まれます。競技会で培ったノウハウは普段の釣りにも反映され、プライベートの釣行がより楽しいものになりました。

限られた時間のなかで結果を出すことを意識すると、おのずと効率を突き詰めていくことになります。競技会で培ったノウハウは普段の釣りでも役立つはずです。

私が競技会に目覚めるまで

地元の利を生かして投げ釣りに入門

私は投げ釣りのメッカである湘南の藤沢に生まれました。子供の頃から近所の川でフナを釣ったり、河口でハゼを釣ったりしていました。学生時代は一時釣りから離れていましたが、バイクや車の免許を取って行動範囲が広がってからは、再び竿を握るようになりました。本格的に投げ釣りを始めたのは、27、28歳の頃だと思います。

子供の頃を除くと、私の釣り人生は投げ釣りひと筋です。
湘南エリアには磯場もあり、ちょっと車を走らせれば箱根には芦ノ湖があります。
磯釣りでもルアーでもなく、なぜ投げ釣りだったのかは自分でもよくわかりません。地の利を生かしてといえばそうですが、他の選択肢は目に入らず、ごく自然に投竿を手にしたようです。

湘南で生まれ育った私の釣り人生は投げ釣りひと筋。地の利を生かし、休日のほとんどをサーフで過ごしました。

投げ釣りに夢中になったのは、よき先輩に恵まれたことも大きいように思います。
入門当時は西湘の酒匂海岸によく出掛けており、そこで全国規模の大会に出るような釣り人と何人も出会いました。
このような人たちから直接手ほどきを受けられたのは、とてもラッキーだったと思います。

西湘の酒匂海岸。「ほどよく釣れない」この海岸は投げ釣り道場でもあり、多くの著名キャスターを輩出しました。

テレビで観たジャパンカップに触発

競技会との出会いは、テレビで観たシマノジャパンカップでした。ちょうど横山武さんが3連覇を成し遂げた頃で、これに触発された私は、地元で開催される予選に参加するようになりました。最初こそ興味本位でしたが、やがて勝つための釣りを目指すようになったのは前述のとおりです。

私がホームグラウンドとしている湘南から西湘にかけての海岸は、日本海ほどシロギスが濃いエリアではありません。そのかわり、波口からドン深であるため、冬期の低水温下でも釣果が望めます。ただし、水温の低下にともなって遠くなったポイントへ仕掛けを投げられれば、です。

こんな釣り場なので、湘南エリアには8~9色をコンスタントに投げるパワーキャスターが何人もいます。

ジャパンカップで3勝した山本修さんもそのひとりですが、体が小さく非力な私にそこまでの遠投は無理。そこで、さほど遠投しなくてもテクニックで多くの魚をつける釣りを目指しました。

パワーキャスターが顔を揃える湘南エリア。私は小柄で非力なため遠投するにも限界があり、技で魚をつけるテクニカルな釣りを目指しました。

誰も手をつけられないポイントのウブな魚を狙う遠投に対し、誰もが狙えるポイントでできるだけ多くの魚に喰わせるのが私のスタイルです。一定の範囲内で数を釣るには、釣り方はもちろんのこと、仕掛け使いやエサ使いにも工夫が必要です。具体的な手法については、次回以降にじっくりと説明させていただきます。

競技会とプライベートの釣りの違い

工夫の大半はメンタルと事前準備にある

先に私はプライベートと競技会では、はっきり釣りを分けて考えるタイプと書きましたが、釣りのスタイル自体は普段の釣りとさほど変わりません。というのも、プライベート、競技会にかかわらず、常に釣りの効率を考えているからです。楽しむ釣りであっても手返しはスピーディーであることに越したことはないし、トラブルも少ないほうが釣りに集中できます。

では何が違うのかといえば、メンタルと事前準備です。メンタルは心構えとも言い換えられますが、競技会で試合をするときは、プライベートとは違う思考で竿を出していることは確かです。
普段の釣りでは、釣れなくなれば自分の好きなポイントへ移動できます。しかし競技会は自分のエリアが決められているうえ、2回戦、3回戦ともなれば、それまで散々攻められたポイントで魚を釣らなければいけません。

1回戦目ならば誰も攻めていないサラ場での釣りなので、釣り方さえ間違えなければある程度の釣果は望めます。しかし2回戦目、3回戦目ともなると、当たり前の攻め方では数が伸びないこともあるため、竿抜けはどこか、どの距離をどのように攻めるかなど、常に先のことを考えておくことが大切です。

同じポイントを繰り返し使用する競技会では、魚が薄くなったときどのように立ち回るかが重要です。
下見も釣れる場所にこだわらず、条件によって魚がどこに入ってくるかを探ります。

ジャパンカップの決勝大会が行われる鳥取県の弓ヶ浜などは横に広く動けるので、比較的容易にポイントの見当をつけられます。しかし地区予選やセミファイナルは同じポイントを繰り返し使うので、2回戦目、3回戦目で魚が薄くなったときに、どのように立ち回るかを意識して下見を行います。釣れる場所にこだわらず、条件によってどこに魚が入ってくるかをサーチしておきます。

仕掛けとエサは十分に用意する

事前準備とは、あらゆる状況を想定し、それに応じた仕掛けとエサを十分に用意しておくことです。普段の釣りでは、フグにエダスを1本噛み切られたくらいなら補修して使いますが、1分1秒を争う競技会では、結びに取られる時間も惜しいもの。魚影が濃い釣り場ではハリ数の多い仕掛けを多用しますが、多点掛けを狙うと仕掛けが絡まるトラブルも考えられます。

仕掛けに関わる時間のロスを軽減する方法は「手早く仕掛けを交換できるようにすること」「仕掛けを絡ませない(消耗させない)こと」の2点に尽きます。手早く仕掛けを交換できるよう予備の仕掛けにスナップを結んでおくのは、多くの人が実践している工夫です。私も近投で手返しよく攻めるときの仕掛けには、すべてスナップを結んでワンタッチで交換できるようにしてあります。

ただ、スナップやサルカンなど重量のある可動パーツを付けていると、遠投時に絡んでしまうことがあります。これを防ぐため、遠投用としてスナップなどの小物を付けないテンビン直結タイプの仕掛けも用意しています。これは絡みを防ぐための工夫です。

1分1秒を争う競技会では、ちょっとしたトラブルが大きなロスとなります。あらゆる状況に対応できるよう仕掛けは数パターン準備しておくとよいでしょう。

エサについては多くの種類を持ち歩く必要はなく、自信を持って使えるものが数種類あればよいと思います。

ただし、量は十分に用意し、その保管にも気を遣うことです。試合の途中で当たりエサがなくなってしまうのは論外。予備のエサは適温を保ったクーラーボックスに入れるなどして、鮮度を落とさないようにしましょう。

当たりエサは地域により、状況によって変わってきます。何があっても困らないよう、種類、量とも十分に用意しておきましょう。

vol.2に続く